チョン・スラ&ホンジュン 『ある日ふと』|2026日韓歌王フェスティバル視聴記
「日韓歌王フェスティバル、楽しんでいますか?」
司会を務めるリンとチョン・ユジンの呼びかけに、会場から大きな歓声が上がる。
「どれも貴重なステージですが、次は本当にうらやましいステージです」とリン。
「尊敬するチョン・スラさんと、第3代歌王のホンジュンさんが歌います」
二人の紹介とともに、名曲『ある日ふと』のイントロが静かに流れ始めた。
世代を越えて愛される、つらい過去を乗り越えて「もう一度立ち上がる姿」を描いた名曲
この曲は、韓国の伝説的な歌姫であるチョン・スラが2017年に発表した楽曲だ。単なる男女の別れを歌ったものではなく、「激動の人生を振り返り、これからは自分のために生きていこう」という、大人の心に深く染みるバラードである。
ある日ふと振り返ると、通り過ぎてきたすべてのことが痛みに思える。
風が吹き、心に寂しさが募る。私はどこへ行けばいいのだろう。
いつになったら過去へのこだわりを手放し、笑って自分を見つめられるだろうか。
ある日ふと考えてみたら、私がいてこそ世界があるのだから、これからは自分のために心を空っぽにしなければいけないのに・・・・・・。
年齢を重ねた誰もが一度は感じる「ふとした虚しさや後悔」、そして「これからは誰かのためではなく、自分を大切に生きていこう」という切実な決意が、哀愁を帯びた美しいメロディに乗せて歌われている。
実は、チョン・スラ自身も1980年代に大ヒットを連発した国民的歌手でありながら、私生活では深刻な金銭トラブルや辛い離婚を経験し、一時期は全財産を失うほどの暗黒期を過ごした。そんな苦難を乗り越え、再び前を向いて歌ったのがこの曲。だからこそ、彼女の歌声には圧倒的な人生の重みと説得力が宿り、聴く者の涙を誘う。
発表当時は知る人ぞ知る名曲だったが、2020年に韓国の人気テレビ番組『愛のコールセンター』にて、現在の韓国音楽界のトップスターであるイム・ヨンウンがこの曲をカバーした。
しかも、オリジナル歌手であるチョン・スラ本人の目の前で披露されたその優しい歌声は、100点満点を叩き出すほどの素晴らしい完成度だった。彼女自身も大感動したこのステージをきっかけに人気が爆発し、楽曲に再び大きなスポットライトが当たるようになった。
さらに、2025年に放送された番組『日韓トップテンショー』にて、韓国の実力派シンガー・マイジンが情感たっぷりにこの曲をソロで歌い上げた。それが大きな話題となり、今回の日韓歌王フェスティバルにおける、オリジナル歌手のチョン・スラとホンジュンによる奇跡の共演へと歌い継がれることになった。こうして国境を越えた名曲は、日本の人々の心をも深くつかむこととなった。
魂を揺さぶる、奇跡のコラボステージ
ステージの上、ピアノの美しい旋律が響く中、チョン・スラとホンジュンの二人は椅子に腰掛け、静かに天を見つめている。観客も両手を祈るように組み、一音も聞き漏らさないようじっと聴き入っていた。リンも思わず「生で聴けるなんて……」と感嘆の声を漏らした。
チョン・スラが目を閉じ、しんみりと歌い始める。
「過ぎた全てが傷ですね」
その歌声は、これまでの苦悩の日々を思い起こさせるように、聴き手の胸の奥深くへじわじわと染み渡っていく。
続いて、「今日も胸に風が吹く」という歌詞のところで、今度はホンジュンが引き継いで一人で歌う。人生のふとした瞬間に訪れる孤独や愛おしさを、切なく、丁寧に歌っている。
その後も、二人は言葉を交わすように交互に歌声を響かせた。
「いつになれば笑って私を見られるだろうか」(チョン・スラ)
「あの時なぜそうしたのだろうか」(ホンジュン)
「あの時なぜ気づかなかったのだろうか」(チョン・スラ)
そして、「愛に別れが隠れていることを」というフレーズで、二人の声が美しく重なり合う。
間奏に入ると、リンから「拍手を」と促されるものの、会場は二人がかもし出すしんみりとした余韻に包まれていた。
後半、さらに感情を高めながら交互にフレーズを紡ぎ出す二人。
「自分のために無になるべきなのに」(チョン・スラ)
「まだ私は自分のことを・・・・・・」(二人)
最後は、切ない吐息のようなフーフー、ヒューヒューという声を響かせ、美しい余韻を残してフィニッシュ。その瞬間、会場からは割れんばかりの拍手が巻き起こった。
音楽を超えた、二人の絆
チョン・スラの歌声は、まるで生き物のように変化する。
ただ楽譜通りにきれいに歌うのではなく、一瞬一瞬の呼吸や体温の変化に合わせるように、ダイナミックかつ繊細にうねりながら心に迫ってくる。時に優しく語りかけ、時に圧倒的なエネルギーで押し寄せるその歌声。単に「歌が上手い」という次元を超え、人生の経験や感情がダイレクトに伝わってくるからこそ、私たちはあんなにも心を揺さぶられてしまうのだろう。
歌い終わった瞬間、二人はお互いの健闘を讃えるようにぎゅっと抱き合った。
「ステキよ」と笑顔を見せるチョン・スラ。
「どうも」と感謝を伝えるホンジュン。
世代を超えた二人の絆と、人生の切なさ、そして「つらい経験を乗り越えて、もう一度前を向いて生きていこう」という前向きな想いを描いた、まさに伝説に残る感動的なステージだった。
投稿:2026年7月17日(金)
シンガープロ 安藤秀樹
